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浦和地方裁判所 昭和56年(ワ)1370号 判決

原告

木村道子

ほか一名

被告

国際興業株式会社

主文

一  被告は、原告木村道子に対し、金一三九万五八九四円、原告板倉純一に対し、金三六万六二九三円及びこれらに対する昭和五四年一二月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は五分し、その四を原告らの、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

一  請求の趣旨

1  被告は、原告木村道子に対し、金八七四万八一九三円、原告板倉純一に対し、金三七九万一〇九二円及びこれらに対する昭和五四年一二月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  請求の原因

1  被告の従業員増田享一(以下「増田」という)は、昭和五四年一二月一日午後五時二〇分ころ、浦和市大字大牧一四八七番地先路上において、大型乗用自動車(以下「本件自動車」という)を運転し、中尾方面から大門方面に向つて時速約一五キロメートルで進行中、折から左前方を同一方向に足踏式自転車に乗つて進行していた木村弘明(以下「弘明」という)を認め、その右側から弘明を追越そうとしたが、ガードレールに接触して転倒した弘明を自車左後輪により轢過し、頭蓋骨複雑骨折により弘明を即死させた。

2  被告は、右大型乗用自動車を保有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条にもとづき、本件事故により発生した損害を賠償すべき義務がある。

3  原告らは、弘明の父母であり、同人の死亡により各二分の一あて同人の権利義務を相続した。

4  損害

(一)  医療費 五万円

(二)  葬儀費用 八六万二〇〇一円

(三)  墓地使用、墓石、仏壇、仏具、位牌の費用 四五四万五一〇〇円

(四)  逸失利益 一四二四万七九八五円

右算出の根拠は、昭和五四年賃金センサスによる一八歳男子平均年収一四二万四三〇〇円、生活費控除五割、新ホフマン係数二〇・〇〇七による。

(五)  慰謝料 一二〇〇万円

右金員中、金一〇〇〇万円(各金五〇〇万円)は、原告らが蒙つた精神的苦痛に対する慰謝料として、金二〇〇万円は、弘明が蒙つた精神的損害であり、これを原告らが各自二分の一あて相続したものである。

5  弁済充当

原告らは、自賠責保険金一八六六万五八〇〇円の支払いを受け、原告木村道子は、被告から葬儀費用として金五〇万円の支払を受けた。

6  原告ら各自の損害

右4項の損害(一)ないし(三)は原告木村道子が出捐したものであり、(四)の損害賠償請求権は、原告らが各二分の一あて相続し、5項の自賠責保険金については相続分に応じて各二分の一を原告らの損害に弁済充当することとするが、これによると、原告木村道子の損害は金八七四万八一九三円、原告板倉純一の損害は金三七九万一〇九二円となる。

7  よつて、被告に対し、原告木村道子は損害賠償金八七四万八一九三円、原告板倉純一は損害賠償金三七九万一〇九二円及びこれらに対する不法行為の日である昭和五四年一二月一日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  請求の原因に対する答弁

請求の原因1項ないし3項は認める。4項(一)ないし(四)は知らない、(五)は争う。5項は認める。6、7項は争う。

五  抗弁

弘明は、死亡当時一〇歳であつたが、未だ自転車操作が十分でなかつたうえに、その体格に比して大きすぎる自転車にのり、また、事故前に買つたビニール袋入りの文房具を片手持ついわゆる片手運転をしたため、ふらついて走行していたものであり、このような運転により、自転車を左側のガードレールに接触し、その反動でバスの下に倒れ込み本件事故が発生したもので、増田運転の本件自動車は弘明の自転車に全く接触していないのである。

右のとおり、本件事故の発生については、被害者弘明の過失も大きいので、その損害額の算定にあたつてその過失を斟酌すべきである。

六  抗弁に対する答弁

抗弁は否認する。本件事故は、増田が弘明運転の自転車の動静を注視せず、十分な間隔をとらずに追越そうとしたことに基因する。

七  証拠は記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求の原因1項ないし3項の事実は当事者間に争いなく、結局、本件事故についての被告の責任は争いないことになるので、以下その損害について判断する。

二  損害についての判断

1  原告木村道子本人尋問の結果及び同尋問結果により真正に成立したものと認められる甲第三五号証によれば、同原告は昭和五五年一月三〇日、弘明の遺体検案料として金五万円を篠崎医院に支払つたことが認められる。

2  次に、原告木村道子は葬儀費用として金八六万二〇〇一円を請求しているが、この金額の内容は全く不明であり、また、同原告が提出する甲第六号証ないし第三四号証の領収証等の合計額とも一致せず、また、その中には使途や内容のややはつきりしないものも存し、更に、請求の金額の中に右領収証等による金額が含まれるのかあるいは別なのかも定かではなく、この認定は困難をきわめる。

しかしながら、原告木村道子本人尋問の結果、同尋問結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六号証ないし第三四号証によれば、甲第六号証ないし第三四号証は、弘明の通夜、葬儀、初七日、四九日に要した雑費の一部であると推察され、また、原告木村道子の供述ならびに主張な総合すれば、右領収証等の金員は同原告の請求金額の中に含まれているものと解され、右領収証等の金額の合計は金七二万八二〇一円となる。

ところが、右領収証等によれば、葬儀の際の祭壇費、霊柩車の費用、遺体焼却費、寺院への御礼等は含まれていないのではないかと推察され、これらの諸経費も相当額に達するであろうこと、また、原告木村道子本人尋問の結果によれば、八十五、六万円要した旨供述していることを考慮すれば、同原告は、弘明の葬儀等の儀式により、少なくとも金八六万二〇〇一円は出捐しているものと推認され、右損害はいずれも本件事故と相当因果関係があり、相当である。

3  更に、原告木村道子は、墓地使用代、墓石、仏壇、位牌の費用として金四五四万五一〇〇円を請求し、同原告本人尋問の結果真正に成立したものと認められる甲第一号証ないし第五号証によれば、原告が右金員を出捐したことが認められる。

たしかに、右の費用項目は事故から通常生ずべき損害であるというべきであるが、賠償すべき金員については、通常生ずべき範囲に限定されるべきである。本件では四五四万五一〇〇円もの多額な金員が出捐されており、死亡した子供のためにできるだけ手厚くしたいとの親心は理解しうるものの、これを全額認容することはできない。その金員の限度であるが、一時期三〇万円から五〇万円の基準が採用されていたが、物価上昇の昨今の状況を考慮に入れても金一〇〇万円を限度とすべきであると思料する。従つて、金一〇〇万円の限度で損害額として認容することとする。

4  弘明の逸失利益については、弘明は死亡当時一〇歳の少年であつたことは当事者間に争いなく、将来の収入については判断すべき資料がないので、昭和五四年賃金センサスによる一八歳男子平均給与年間一四二万四三〇〇円をその基礎とするのが相当であり、生活費控除は五割、一八歳から稼働可能期間六七歳までの新ホフマン係数二〇・〇〇七(二六・五九五―六・五八八)を採用することはいずれも相当であるから、その逸失利益は金一四二四万七九八五円となり、これを全額認容しうる。

5  慰謝料については、原告らは、各自が蒙つた分と弘明が蒙り原告らが相続した分とに分けて請求するが、その法的な構成方法については別としても、全部含んで金一〇〇〇万円をもつて相当とする。

三  過失相殺についての判断

被告は、本件事故の被害者弘明にも過失があつた旨主張するのでこれについて判断する。

証人増田享一の証言、成立に争いない乙第一号証ないし第四号証、同第六、七、九号証ならびに当事者間に争いがない事実によれば、弘明が轢過された位置のほぼ真横にある進行方向左側のガードレールの内側にほこりの払拭痕が認められ、本件自動車の前部、左側面、後部には真新しい傷やほこりの払拭痕は全く認められないこと、弘明が運転していた自転車は地上からサドルまでの高さが七四センチメートルであることがそれぞれ認められ(なお、被告は弘明が片手運転であつた旨主張するが、これを明確に認めるべき証拠はない。)、これらの事実を総合して考えるに、本件事故は、自転車に自動車を接触させてまき込んだという事故ではなく、本件自動車の運転手の増田においても、弘明の動きには注意をしていたが、不幸にも弘明の自転車が左側のガードレールに接触し、その反動で自転車が倒れ、弘明の体がバスの下に入り込み、自動車の左後輪で轢過されたものであり、弘明の自転車がガードレールに接触した原因については、自転車の側面を大型自動車が通過すると心理的に圧迫され正確な運転ができなくなる影響によつたのではないかという点も十分考慮すべきではあるが、弘明は、死亡当時一〇歳であり、自転車の操作自体熟練していたとはいい難く、また、乗車していた自転車はサドルの高さから見て大人用のものであり、体格に比較して大きすぎて、その操作走行について安定性を欠いていたのではないかと推察され、このような要因が重なり、自転車の走行が蛇行したものと窺われるところである。そうすると、本件事故は、その態様から見て、被告のみにその責任を負わせることは妥当ではなく、弘明側にもその責任の一端は存するというべきであり、その過失を斟酌すべきであるが、その程度については、弘明は当時若年であり、このような弱者を守るべきであるとの基本から考えて余りその過失を強調することは妥当ではなく、損害額の二割を弘明の過失として斟酌する程度に止めるべきである。

四  原告らの損害額の算定について

損害額の認定については、前記二項のとおりであり、原告が本件において受領した金員については請求の原因5項のとおり当事者間に争いなく、右のとおり過失相殺は二割であるから、この基準により原告らの損害について計算する。

1  原告木村道子

同原告の損害は、前記二項1ないし3により同原告が出捐した金員の一部である金一九一万二〇〇一円と4による弘明の逸失利益の二分の一あての相続分金七一二万三九九二円(少数点以下切捨て)と5の慰謝料金五〇〇万円の合計金一四〇三万五九九三円となる。そして過失相殺が二割であるからその金員は金一一二二万八七九四円(少数点以下切捨て)となり、同原告は、被告より葬儀代として金五〇万円と自賠責保険金のうち二分の一の金九三三万二九〇〇円をそれぞれ受領しているので、この分を控除すると損害金は金一三九万五八九四円となる。

2  原告板倉純一

同原告の損害は、前記二項4の逸失利益の二分の一相続分金七一二万三九九二円(少数点以下切捨て)と5の慰謝料金五〇〇万円の合計一二一二万三九九二円であり、過失相殺二割分を控除すると金九六九万九一九三円(少数点以下切捨て)となり、更に自賠責保険金のうち二分の一の受領額九三三万二九〇〇円を控除すると金三六万六二九三円となる。

五  以上のとおり、原告らの本訴請求は、主文一項の限度で正当であるから、これを認容し、その余は理由がないから、これを棄却し、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山崎潮)

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